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村田編集長のコラム集
2008年11月17日

庭が消える

「全国労保連」2008年9月号掲載

 8月末、マンション10年目の大修理が始まった。外壁のぐるりに足場がかけられベランダは使えず、部屋の中は暗く、何ともうっとうしい。修理は12月の半ばまで続く。安心して長く住み続けるためには修理は欠かせないが、長年、樹木の手入れをし好きな花を咲かせてきた庭には鉄柱の柱がきつ立し、ベランダに置いてあった物などの、物置き場と化した様は、情けない限りである。
 10年前、このマンションに引っ越してきた理由の一つは、広い専用庭があったことである。10坪はある。小さいころから花いじりが好きで、育てたり増やしたりして楽しんでいた。飽きっぽい性格でありながら、花の世話だけは丁ねいで、枯れかけた鉢物も見事に立ち直らせたものである。仕事を辞めたら好きなだけ花を育て、手入れをし、1日中、庭を眺めて過したいと考えていた。その夢を実現するには、格好のマンションだったのである。
 庭にはもともと桜や白樺が植えられており、芝生であった。しかし草は生えるわ芝生の手入れに時間はとられるわで、手間ヒマのかからない庭にしようと庭師さんにお願いした。竹と枕木で歩ける道をつくり、木々や草花の間を木のチップや砂利で埋めた提案は、気に入った。草花は、都忘れ、苧環(おだまき)、擬宝珠(ぎぼうし)、鈴蘭(すずらん)、射干(しゃが)など、白や紫の花を中心に選んだ。垣根の側は躑躅(つつじ)、雪柳、満天星(どうだんつつじ)といったなじみのもの。前の家から持ってきた懐かしい思い出の木々も、植えてほしいとお願いすると「そうですね。考えましょう」と、全体の調和を乱さないように、庭師さんは私の願いを実現してくれた。何といっても気に入ったのは、バードバス(野鳥の水飲み場)を設置してくれたことである。自分の家の庭に野鳥を呼び寄せたい。長年の夢であった。バードバスに覆いかぶさるようにしだれ梅が植えられ、私の最も好きな一角となった。スズメ、ヒヨドリ、ムクドリはもちろんのこと、シジュウカラ、メジロ、ジョウビタキなど、すっかり常連になった。「あ、水浴びしたな」とはっきりわかるほど、水が脂ぎっているときがある。小鳥がバードバスのふちに止まって水を飲む様は、愛らしい。冬、みかんなどを木々に刺しておくと、メジロが争ってチューチュー吸っている。それをヒヨが邪魔をする。シジュウカラは、エサ箱に置いてあるヒマワリの種を上手に割って、食べる。その木の下は、殻で真っ白になる。洗濯物がはためいている晴れた日などは、ことのほか、気持のいい庭となり、見飽きない。
 しかし今や、足場の邪魔になる木は庭の隅に移植され、寒冷紗に覆われている。枕木の通り道も掘り返され、足もとはおぼつかない。昨日まで風が吹き抜け陽の光がまぶしかった庭の面影は、消えた。10年、楽しませてもらった。年明けには新たな庭づくりに挑戦と、気持を切りかえることにしよう。

全国労保連 2008年9月号掲載(社団法人 全国労働保険事務組合連合会 発行)

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