ザルツブルク復活祭音楽祭
「全国労保連」2008年5月号掲載
ザルツブルクの3月は、厳寒期だった。事前に、真冬の服装でと言われていたにもかかわらず実感がわかず、軽装の我々は震えた。
「ザルツブルクのイースター音楽会へ行きませんか?4夜連続のチケットが手に入ります」と誘われ、熱烈なクラシックファンでもないのに、即座に「行きます」と答えた。夏の音楽祭はよく知られているが、イースターの音楽祭はヘルベルト・フォン・カラヤンが創立したもので、キリストの復活記念祭に行われる。後日、旅行社から具体的な案内が来て、腰を抜かした。何しろ料金がやたら高い。普通の旅行の4回分くらいにはなるだろう。加えて服装。男性はタキシードかダークスーツ。女性はそれに準ずる服装というのである。タキシードに準ずる華やかな服装って一体どんな格好をしたらいいのと、同行する3人の友人ともども、頭を抱えた。イブニングドレスなんて持ってないし、ましてや肩や胸があらわな服装では、風邪をひいてしまう。着物にしようかという意見も出た。しかし荷物が増える。悩んだ結果、一生に一度の機会だから、思い切ってドレスを買おうということになった。ドレスにすればそれに見合う靴もバッグも必要。おまけに寒い時期なので毛皮のショールもいる。3人がチグハグにならないよう基本的なレベル合わせをして、それぞれが準備をした。2人の友人はグリーンとワインレッド、私がクリームがかったベージュのドレスを調達。そして母のミンクのケープを借りていくことにした。「もう用意した?」「アクセサリーはどうする?」等のメールが行き交った準備段階は心が弾み、実に刺激的。それだけで十分に旅の楽しさを味わった。
音楽会の座席は最前列。しかし端の方。バイオリンやチェロのソロ奏者の指使いなどはまったく見えなかったが、常任指揮者のサイモン・ラトルさんの姿はまるでテレビのアップのように、間近に見ることができた。サーの称号を持つラトルさんは、いかめしさというより身体全体から明るい雰囲気が漂い、表情豊か。男の色気というものが感じられる、何とも魅力的な方だった。音楽会終了後は、ベルリンフィルの演奏そっちのけで、ラトルさんがいかに魅力的だったかという話に終始した。カラヤン夫人の姿も見かけた。「グッドイブニング」とあいさつしたら、「グッドイブニング」とにっこり笑って答えてくれた。もうそれだけで、キャーキャー、ワーワー。わずか9日間の、ミーハーに徹した夢見心地の旅。多分、二度と経験することがないだろうぜいたくさだったが、今、写真を見ながら3度目の旅の楽しさを味わっている。うん、これでモトとったかな、なんてセコイことを考えながら。