目指せ、プロの住民
「全国労保連」2007年3月号掲載
2月18日、雨の中行われた初の東京マラソンでは、1万人ものボランティアが大会を支えたという。日本人はこんなにもボランティア精神にあふれていたのかと、こうしたビックイベントや災害時には、いつも実感する。社会のお役にたちたいという人は多いが、常時ボランティア活動をしている人は、関心がある人の1割にも満たないのが現状である。潜在力を、どう実際の行動につなげていくか。東京の江戸川区がいい例を示してくれた。
平成16年10月。江戸川区は「江戸川総合人生大学」を開校した。これは地域のお役にたちたいという人を応援する、いわば生涯学習の場である。私は介護・福祉コースの学科長をおおせつかった。1期生、25名。1年目は介護・福祉に関する基礎知識を身につける座学。2年目は体験活動を通して、地域で活動するための実践力を高めることをねらいにしたカリキュラムである。生徒たちはやる気はあるものの、はたして自分にできるだろうか、やるべきことが見つかるだろうかという不安を抱えての学びであった。当初、授業は緊張感に包まれ生徒たちの顔は固かった。「そんなに思い詰めないで、身の丈でできることでいいんですよ」という私の言葉に皆、肩の力が抜けたように明るくなった。ある時、長年書道を教えているという人が「先生、私老人ホームで書道を教えることになりました」と目を輝かせて報告にきた。「家の近くにホームがあるんですよ。私に書道を教えさせてくれませんかって思い切って頼んだら快く受け入れてくれましてね」と言う。その後彼女は小学校でも交渉し、今は3年生123人に教えている。また同じ地区から通ってくる人たち同士グループをつくり、ミニデイサービスを始めた。
学ぶことによってあいまいだった知識がはっきりする。思いがけない出会いがあり、友情が芽生える。皆で知恵を出し合うことによって、考えてもいなかった可能性が広がる。2年間の学びで生徒たちは、地域デビューする自信をつけ、地域の課題を解決するために自ら行動する喜びを、味わった。ただ言うだけでなく、こうした行動する住民を、私は「プロの住民」と呼びたい。
ボランティア活動をしてほしいと呼びかけるだけでは、なかなか実際の行動に結びつかない。背中を押し、一歩踏み出せるようなしかけが必要だ。それが学びの場であり、学んだ後、地域活動につなげる後押しである。その道筋が見えてないと、学びが単なる時間つぶしに終わってしまう。江戸川総合人生大学では、今3期生が学んでいる。プロの住民が年々増えることによって、地域は確実に変わる。そんな確かな手ごたえを、私は感じている。