患者「さま」
「全国労保連」2006年11月号掲載
私たちは病院へ行くと、患者「さま」になる。医師も看護師も「さま」と奉ってくださる。ありがたいことである、と言いたいが。しかしほとんどの人が違和感を感じ、「さま」と呼ばれることと現実のギャップの大きさに戸惑い、腹立たしささえ覚えているのも、事実である。
私もこの夏の4回目の入院生活で、それを実感した。患者が、とってつけたような「さま」という言い方にうさん臭さを感じる原因の多くは、医師の威圧的な説明やぞんざいな対応にあるようだ。私は幸い、一度もそうしたことに遭遇しなかった。信頼のおける医師と巡り合い、意思の疎通は十分図ることができた。しかし医療環境は決して「さま」に見合うものではなかった。建物が老朽化しているとか狭いなどということではない。患者の満足度を高めるため、ほんの少し、努力とくふうをして欲しいと願うのである。
例えば、病室のドアが開くと部屋中が見渡せてしまう。着替えをしていようが、プリンをほおばっていようが、患者の行動は一目りょう然である。これはドアとベッドの間に、仕切りのカーテンをつけてくれるだけですむ。今は便利な突っ張り棒なるものが売られているし、そんなに手間とお金のかかることではないだろう。それだけの気配りで、部屋にいる患者の安心感は高まるのである。
入浴出来るようになるのは何よりうれしい。日曜日は何もないし見舞い客も少ないので、ゆっくり入りたいと思う。入院が長い場合は、ことさらそう思う。しかし休日は人手が少ないのでほかの日にしてくださいと、看護師さんから申し渡される。今の医療費の中で人手を増やせとは、言い難い面もある。しかしくふうはないのか。入浴介助できるヘルパーさんを探したり、潜在看護師さんを掘り起こしたり、と。
私が入っていた個室は、車いすでは使えなかった。個室を利用するのは、心沈む日々を少しでも快適に過ごしたいと願うからである。しかしそれに見合った待遇など望むべくもなく(高い個室料を払っているのに)という思いを、じっと飲み込み、我慢するだけである。
いつから私たちは患者「さま」と呼ばれるようになったのだろうか。2001年に厚生労働省が「医療サービスの質の向上に関する指針」を出し、その中で、患者の呼称は原則として「様」をつけることを、当時の国立病院に求めたことから広まったようだ。もっともその前から、経営コンサルタントが医療はサービス業という考えを打ち出していた。さしずめ私などは「毎度ありがとうございます。またどうぞ」なんて、言われるのかしらん。